書式

git *

解説

このドキュメントは git.git それ自身で使われているワークフローの 要素を書きとめ、それを使いたいと思わせることを意図しています。 多くのアイデアが一般に適用できますが、より少人数が参加する小さな プロジェクトで完全なワークフローを必要とするのは稀です。

私たちはクイックリファレンスのためにひとまとまりの ルール をとりまとめ、 文章でそれぞれのルールへの動機を与えます。 言葉通りにとらないようにしてください; 重視すべきなのは、この文書のようなmanページの記述よりも あなたがそうすべき理由の方です。

変更を分割する

一般的なルールとして、変更は小さな論理的ステップに 分割して、それぞれをコミットするよう心がけるべきです。 それらは一貫性があり、その後のどんなコミットからも 独立して機能し、テストを通過していて、(以下略。 これはレビュープロセスをより簡単にし、後から、 例えば git-blame(1)git-bisect(1) で 調査・解析するときに、歴史をより価値のあるものにします。

これを達成するには、一番最初からあなたの作業を小さな ステップに分割しておくよう心がけてください。 いくつかの小さなコミットを一緒にひとまとめにすることは、 大きなコミットを分割するよりも、常に簡単です。 作業を続けるにあたって、小さすぎる、または不完全なステップを 作成することを恐れてはいけません。 変更をpushするまえに、 git rebase --interactive を使って 後からいつでもそのコミットに戻って編集することができます。 他のコミットしていない変更の影響を受けずにテスト一式を走らせるのに、 git stash save --keep-index を使うこともできます。 git-stash(1) の EXAMPLES セクションを参照してください。

ブランチの管理

一つのブランチから他のブランチへと変更点を含ませるのに 使うことのできる主要なツールが2つあります: git-merge(1)git-cherry-pick(1) です。

merge にはたくさんのアドバンテージがあります。 だから私たちは merge だけで可能な限り多くの問題を解決しようとします。 それでもcherry-pickは場合によって便利です。 例えば下記の "上流へのmerge" を参照してください。

もっとも重要な点は、mergeはブランチレベルで動作し、 一方cherry-pickはコミットレベルで動作するということです。 これは、merge が 1, 10, あるいは 1000 のコミットを 同等の簡単さで引き継げることを意味します。 これは同様にこのワークフローがより多くの貢献者 (および彼らの貢献)に対してスケールするということです。 merge は理解するのも、より簡単です。 なぜならmergeコミットは、全ての親の全ての変更は このコミットに含まれている、という "約束" だからです。

もちろんトレードオフが存在します: mergeはより注意深いブランチ管理を必要とします。 続くセクションではその要点について議論します。

送り出し

ある機能が実験的なものから安定したものへと移行するように、 ソフトウェアの対応するブランチ間でも機能が "送り出され" ます (Gradute)。 git.git では次のような 統合ブランチ を使っています:

  • maint は次の "メンテナンスリリース" に入るべきコミットをたどります。 つまり、前回リリースされた安定バージョンのアップデートです。

  • master は次回のリリースに入るべきコミットをたどります。

  • next は master にむけたトピックの安定化のための テスト用ブランチであることを意図しています。

少し異なった使われ方をする4番目のブランチがあります:

  • pu (proposed updates, 提案中の変更)は、 含めるにはまだ時期尚早なコミット用の統合ブランチです。 (後述の "統合ブランチ" を参照してください)

4つのブランチは普通、それぞれのすぐ上に紹介したブランチの 直系の子孫になっています。

概念的には、機能は不安定なブランチ (たいていは next または pu です)に入り、 十分安定したと思われれば時期リリースにむけて master に"送り出さ" れます。

(訳注: 親子関係は
  (親) maint <- master <- next <- pu (子)
となっていますが、開発の上流・下流でいうと
  (下) maint <- master <- next <- pu (上)
となります。)

上流へのmerge

上で議論したような "下流への送り出し" は実際には下流への merge では行うことはできません。 mergeをすると不安定なブランチの 全ての 変更が merge されてしまうからです。従って、以下のようにします:

ルール: 上流へmergeする

バグフィクスはそれを必要とする最も古いサポート対象の ブランチにコミットします。そして、(周期的に) その統合ブランチを上流の複数のブランチにそれそれぞれ merge します。

これは、非常に統制のとれたバグフィックスのワークフローを提供します。 もし、例えば master に適用されたバグフィクスが maint でも必要とされていることに気づいたとしたら、 あなたは(git-cherry-pick(1) を使って)下流に向けて cherry-pick する必要があります。 このような事態は何度かは起こるでしょうが、 頻繁にやっているのでなければ心配する必要はありません。

トピックブランチ

ささいな機能でない限り、実装に複数のpatchを必要とするはずです。 そしておそらくその生存期間においては、 追加のバグフィックスや機能改善を受け取るかもしれません。

統合ブランチになんでもかんでも直接コミットすることは、 たくさんの問題もたらします: 間違ったコミットはやりなおせず、 従ってそれらは一個一個リバートする必要があり、 それらは混乱する歴史を生み、一連のコミットグループの 一部だけリバートすることを忘れたりすると、 さらなる潜在的な間違いを生みます。 並列に作業することは、さらなる混乱を生みながら変更をごちゃまぜにします。

"トピックブランチ" の使用はこれらの問題を解決します。 この名前は非常に自己説明的なもので、 上で述べた "上流へmergeする" のルールが発する警告も含んでいます。

ルール: トピックブランチ

すべてのトピック(機能追加、バグフィックス、…)用に、補助的なブランチを作ります。 そのブランチは、最終的にmergeしたいと思っている最も古い統合ブランチから分岐させます。

多くのことを違和感なく行えます:

  • その機能/バグフィックスを統合ブランチに入れるには、 単にそれをmergeします。もしそのトピックが さらに改善され続けたのであれば、再びmergeします。 (最も古いブランチに最初にmergeする必要はないことに注意してください。 例えばバグフィックスは、最初は next にmergeしてしばらくテストの期間を与え、 そして安定したことがわかったら maint にmergeすることができます)

  • もし、あるトピック、例えば topic というブランチの上で作業を続けるのに 他のブランチ other の新しい機能が必要だとわかったら、 other ブランチを topic に mergeしてください。 (ただし、 "単なる習慣として" 実行してはいけません。後述します)

  • もし間違ったブランチから分岐していたことに気づいて、 "過去に戻って" やり直したいのであれば、 git-rebase(1) を使ってください。

最後の要点が他の2つと競合することに注意してください: あるトピックがどこかにmergeされていた場合、 rebaseされるべきではありません。 git-rebase(1) の上流のrebaseからの回復 (RECOVERING FROM UPSTREAM REBASE)のセクションを参照してください。

ここで、統合ブランチを "習慣的に" (大した理由なく定期的に) トピックにmergeする(話を広げて、定期的に上流を下流にmergeする) ことには賛成できない、という点を指摘しておくべきでしょう。

ルール: 明確な理由があるときだけ下流にmergeする

相応の理由(上流の API 変更があなたのブランチに影響を与えている; あなたのブランチを上流に対してキレイにmergeできなくなっている; などなど) がないのに、下流に対してmergeしてはいけません。

そうしないと、mergeされたトピックは(うまく分割された) 単一の変更点以上のものを突然含むようになってしまいます。 その結果として生まれるたくさんの小さなmergeは歴史を 大いに散らかすことになります。 あるファイルの歴史をあとから調査する人は皆、 開発中のトピックにそのmergeが影響したかどうかを 調べなければならなくなります。 さらに、上流がうっかりと "より安定した" ブランチへとmergeされてしまうかもしれません。 などなどです。

使い捨て統合

先のパラグラフに従っていれば、小さなトピックブランチを たくさん持っていることでしょう。 そして、場合によってはどうやってそれらを 相互作用させればよいのかと心配しているでしょう。 もしかしてそれらをmergeした結果、 動きさえしなくなってしまうのでは? そして、一方で私達はそれらを "安定" しているところへ mergeするのは避けたいと思っています。 そういったmergeは簡単にはやり直せないからです。

その解決方法はもちろん、やり直しがきくmergeをつくることです: 使い捨て統合ブランチへmergeしてください。

ルール: 使い捨て統合ブランチ

いくつかのトピックの相互作用をテストするために、 使い捨ての統合ブランチへそれらをmergeします。 ただしそのようなブランチを作業ベースにしてはいけません!

もし、このブランチをテストの直後に確実に削除すると (極めて)明確にしているのであれば、pushさえ可能です。 例えばテスターに対してそのブランチを使って作業する機会を与えるためにです。 あるいは、他の開発者にもしそれらの開発中の作業が 完了したらどうなるのかを見せるためにです。 git.git はそういった使い捨て統合のための pu という、公式なブランチを持っています。

リリースにむけたブランチ管理

上で議論されたようなmergeアプローチをとっているとすれば、 プロジェクトをリリースしようというときには いくつかのブランチ管理作業が追加で必要になります。

機能リリースは master ブランチから作成されます。 なぜなら master は次回の機能リリースに入るべき コミットをたどっているからです。

master ブランチは maint ブランチのスーパーセットであるべきです。 この条件を満たさない場合、maint ブランチは master に含まれないコミットを含むことになります。 従って、これらのコミットが対応するバグフィックスは、 機能リリースに含まれないということになってしまいます。

matermaint のスーパーセットであることを確認するには git log を使います:

レシピ: mastermaint のスーパーセットであることを確認する

git log master..maint

このコマンドではコミットはひとつもリストされるべきではありません。 もしリストされたら master をcheckoutし、 maint をそこにmergeします。

これで機能リリースの作成作業を実行できるようになりました。 master の先端にリリースバージョンであることを示すタグをつけます:

レシピ: リリースタグの作成

git tag -s -m "Git X.Y.Z" vX.Y.Z master

この新しいタグを公開Gitサーバにpushする必要があります (後述の"分散ワークフロー"を参照してください)。 これによりあなたのプロジェクトを追っている 皆に対してタグを有効化できます。 このpushはまた、post-updateフックをトリガーすることができ、 リリース用tarボールや、事前フォーマットされた ドキュメントページを作成することに使えます。

同じように、メンテナンスリリースに対しては、 maint がリリースされるべきコミットをたどっているので、 上記のステップのタグ付けとpushを、 単に master ではなく maint に対してすればよいことになります。

機能リリース後のメンテナンスブランチ管理

機能リリースの後は、そのメンテナンスブランチを管理する必要があります。

最初に、最新の機能リリースの前に作られた 機能リリース用のメンテナンスフィックスを リリースし続けたいのであれば、 そのリリース用のコミットを追跡する 別のブランチを作っておく必要があります。

これを実行するには、現在のメンテナンスブランチを 前のリリースバージョン番号の名前でコピーしておきます。 (例えば最新リリースがX.Y.Z であれば、maint-X.Y.(Z-1)です)

レシピ: maintをコピーする

git branch maint-X.Y.(Z-1) maint

今度は maint ブランチを新たにリリースされた コードへとfast-forwardします。 これはメンテナンスフィックスが 最新リリースを辿れるようにするためです。

レシピ: 新しいリリースへと maint を更新する
  • git checkout maint

  • git merge --ff-only master

もしmergeが失敗したとすれば、 それはfast-forwardではないからです。 そうであれば maint 上のいくつかのバグフィックスが 機能リリース内から欠けていることになります。 このような事態は、先のセクションで述べたように、 mastermaint ブランチの内容を確認しておけば、 発生しないはずです。

機能リリース後の next および pu のブランチ管理

機能リリース後、統合ブランチ nextmaster の先端へと巻き戻し、 もとの next 上に生き残っていたトピックブランチを 使って再構成して構いません。

レシピ: next を巻き戻して再構成する
  • git checkout next

  • git reset --hard master

  • git merge ai/topic_in_next1

  • git merge ai/topic_in_next2

これを実行する利点は、 next の歴史がキレイになることです。 例えば、いくつかの next にmergeされたトピックブランチが 最初は良く見えていたのに、後で望ましくない、あるいは 早まったものだったとわかったとします。 このようなケースでは、そのトピックブランチは next からリバートされるべきですが、 歴史の中にはmergeされ、リバートされたという事実が残ってしまいます。 next を作りなおすことにより、生まれ変わったトピックブランチに対して、 やり直しのためのキレイな黒板を与えることができます。 機能リリースは、それを実行するちょうど良い歴史上のポイントなのです。

これを実行するのであれば、 next の巻き戻しと再構成に 関する公式アナウンスをすべきです。

同じ巻き戻しと再構成のプロセスが pu にも適用されます。 pu は上で述べたように使い捨てブランチなので、 公式アナウンスは不要です。

分散ワークフロー

先のセクションで、どうやってトピックを管理するかを学びました。 ふつう、そのプロジェクトで作業しているのはあなただけではないでしょう。 だから、あなたは作業結果を共有しなければならないはずです。

大雑把にいうと、ふたつの重要なワークフローがあります: mergeとpatchです。 重要な違いは、mergeワークフローはmergeを含む全ての歴史を 伝搬させることができ、一方patchではできない、ということです。 両方のワークフローは並行して使うことができます: git.git においてはサブシステムのメンテナたちだけが mergeワークフローを使っており、他の人たちは皆patchを送っています。

メンテナは、例えば「Signed-off-by」要求といった、 提出されるすべてのコミット/patchがそこに含めなければ ならないような制限を課すことがあるという点について注意してください。

mergeワークフロー

mergeワークフローは上流と下流の間でブランチを コピーすることによってなされます。 上流は貢献内容を公式な歴史へとmergeできます。 下流は作業を公式な歴史の上で行います。

これを実行するのに3つの主要なツールがあります。

  • git-push(1) はあなたのブランチをリモートのリポジトリ、 普通はすべての参加者にが読み込み可能なひとつのリポジトリにコピーします。

  • git-fetch(1) はリモートブランチをあなたのリポジトリにコピーします: そして、

  • git-pull(1) は fetch と merge を一気に行います。

最後の項目に注意してください。 リモートブランチをmergeしたいのでなければ、 git pull を使っては いけません

変更を公開するのは簡単です:

レシピ: Push/Pull: ブランチ/トピックを公開する

git push <remote> <branch> を実行し、皆にfetchできる場所を知らせます。

メールのような異なる方法で他の人に知らせる必要があるでしょう。 (Gitは、この作業を簡素化するために、事前にフォーマットされたプルリクエストを 上流のメンテナに送る git-request-pull(1) を提供しています)

もし単に統合ブランチの最新のコピーを取得したいだけであれば、 新しい状態に保つことも簡単です:

レシピ: Push/Pull: 最新の状態に保つ

最新の状態に保つには、 git fetch <remote> または git remote update を使います。

そして、先に説明したとおり、単にリモートの 安定ブランチからあなたのトピックブランチを分岐させてください。

もしあなたがメンテナで、他の人たちのトピックブランチを 統合ブランチにmergeしたいのであれば、 他の人たちは普通そうしてくれとメールで要求を送るでしょう。 要求はこんなかんじになります。

以下からプルしてください
    <url> <branch>

このケースでは、以下のように git pull で 一気に fetch と merge を実行できます。

レシピ: Push/Pull: リモートのトピックのmerge

git pull <url> <branch>

場合によっては、メンテナが下流から変更をpullしようとしたときに、 mergeコンフリクトが発生するかもしれません。 このケースでは、下流の開発者に対してmergeと コンフリクトの解消をお願いすることができます (たぶん、彼らのほうがどうやって解消するかよくわかっているでしょうし)。 これは下流が上流からmerge すべき 数少ないケースです。

Patch ワークフロー

もしあなたが貢献者で、emailで変更点を上流へ送るのであれば、 普段どおりトピックブランチを使うべきです(上のほうを参照)。 そして、それに対応するemailを生成するのに、 git-format-patch(1) を使います。 (これは手でフォーマットするよりも推奨されます。 メンテナ生活を楽にするためです。)

レシピ: format-patch/am: ブランチ/トピックを公開する
  • git format-patch -M upstream..topic を使って、 トピックブランチを事前フォーマットされた形式に変換します。

  • git send-email --to=<受信者> <パッチ(複数)>

さらなる利用上の注意については git-format-patch(1) および git-send-email(1)のmanページを参照してください。

メンテナがあなたに対して、 「あなたのpatchは現在の上流にはもう適用できない」と伝えてきたら、 あなたのトピックをrebaseしなければいけません (ここではmergeを使うことはできません。 なぜならmergeをformat-patchできないからです。):

レシピ: format-patch/am: トピックを最新の状態に保つ

git pull --rebase <url> <branch>

このrebaseを実行する中でコンフリクトを修正することができます。 多分あなたはemail以外ではトピックを 公開していないでしょうから、rebaseによって 問題が発生することはありません。

もしそのような一連のpatchを(メンテナとして、または、 おそらくメーリングリストに送られたものを購読者として) 受け取ったのであれば、そのメールをファイルにセーブして、 トピックブランチを作成し、それらのコミットを git am でインポートします:

レシピ: format-patch/am: patch をインポートする

git am < patch

ここで指摘するに値する機能は3way mergeです。 これは、コンフリクトが発生した場合に便利です: git am -3 は、mergeベースを検出するのに、 patchに含まれる情報を使います。 他のオプションについては git-am(1) を参照してください。

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